イヌ派か、ネコ派か?
パン派か、コメ派か?
ウドン派か、ソバ派か?
世の中、このような解像度の低い質問がある。「どっちでもいい派」や「どっちも好き派」といった答えが許されない場面では、答えを出せずに困る人も少なくないのではないか。私もそのひとりである。
これらのやりとりは、居酒屋での他愛もない会話のようなものである。しかしながら、人によってはこの程度のことしか考えていないジャンルもあるのではないかと思う。
前置きが長くなったが、今回の記事で取り上げたいのは浅草「角萬」の冷やし肉南蛮蕎麦である。この蕎麦は私のお気に入りで、たびたび足を運んでいる。営業は昼のみで、日曜日が定休日である。ちなみに今回紹介するのは冷やし肉南蛮蕎麦だが、「角萬」はうどんも絶品である。
「角萬」の冷やし肉南蛮蕎麦。その美味しさは言うまでもないが、特徴を挙げるとすれば、まず極太の麺である。この麺は、山形の田舎蕎麦とはまた異なる独特の存在感を放つ。そして、出汁の効いたつゆは決して濃すぎることなく、何度でも食べたくなる味わいである。その上には、ネギと肉がどさっとのせられている。
写真は、冷やし肉南蛮蕎麦に海老天、玉子、追加ネギ、追加肉をトッピングした、私的最強カスタムである。特大サイズの海老天。ネギと肉もそれぞれが主役級の存在感を放っている。目を細めれば中央の卵は、曼荼羅の中央に座る大日如来に見えてこなくもない。最後に蕎麦湯をそのまま丼に注ぎ味わうのだが、これもまた絶品である。
蕎麦というジャンルには、「角萬」の冷やし肉南蛮蕎麦のように個性が際立つものが無数に存在している。それを「蕎麦派」というひと言で十把一絡げにしてしまうことには、無理があると言わざるを得ない。
そもそも、蕎麦に対する「普通はこうだ」という一般的なイメージ。それは、かつての王者であったテレビなどのマス媒体、全国展開する食品メーカーとチェーン店が、戦後に作り上げたものであると言えるだろう。
しかし、現在はどうか。多様なメディアが氾濫し、マス媒体の影響力は相対的に弱まりつつある。この時代において、新たな「普通」のイメージが広く浸透し、定着することは非常に難しい状況にある。
我々の世代は、この変化にどう対応すべきであろうか。マスイメージから脱却し、多種多様な蕎麦のイメージを生み出すことができるのだろうか。
「普通の蕎麦はこうだ」というマスイメージの呪縛から解き放たれるためにも。浅草「角萬」に足を運び、冷やし肉南蛮蕎麦を最強トッピングでぜひ味わってほしい。
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手打ち生蕎麦 浅草角萬
住所:〒111-0032 東京都台東区浅草4丁目45−4